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福井地方裁判所武生支部 昭和48年(ワ)21号 判決 1977年3月25日

原告

久木まつゑ

ほか一名

被告

株式会社中村養鶏園

ほか一名

主文

被告らは原告久木まつゑに対し各自金六、八一四、八三六円及び内金六、三六四、八三六円に対する昭和四五年一二月七日以降、内金四五〇、〇〇〇円に対する昭和四八年四月一日以降各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被告らは原告久木道夫に対し各自金二、一九五、三四三円及びこれに対する昭和四六年四月一日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告久木まつゑのその余の請求は棄却する。

訴訟費用は、原告久木まつゑと被告らとの間においては、同原告に生じた費用の二分の一を被告らの連帯負担とし、その余は各自の負担とし、原告久木道夫と被告らとの間においては全部被告らの連帯負担とする。

この判決一項は原告久木まつゑが金二、〇〇〇、〇〇〇円の、同二項は原告久木道夫が金七〇〇、〇〇〇円の各担保をたてたときは仮にその執行をすることができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

被告らは連帯して原告久木まつゑに対し金一三、二三〇、八七四円及び内金一二、〇三〇、八七四円に対する昭和四五年一二月七日以降、内金一、二〇〇、〇〇〇円に対する本訴状送達の翌日以降、それぞれ支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被告らは連帯して原告久木道夫に対し金二、一九五、三四三円及びこれに対する本訴状送達の翌日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  被告ら

被告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

被告中村伸太郎(以下単に被告中村という。)は昭和四五年一二月六日午後一二時四〇分ころ、名古屋市中村区栄生町ガード下交差点手前南方附近を小型貨物自動車(登録番号三四ゆ三一一)を運転して進行中、進路前方の右交差点南側入口附近において、同所に信号の現示が赤であつたため停車中の訴外桃原敬運転にかかる普通乗用自動車(登録番号名古屋五一ほ七二七九)に自車を追突せしめて事故(以下単に本件事故という。)を惹起させた。本件事故により右被告車両に同乗していた原告久木まつゑ(昭和二年四月八日生)、同久木道夫(昭和三〇年四月二八日生)は、前者において頭部外傷第Ⅲ型、胸部打撲傷、外傷性頸椎症、腰椎捻挫(胸膜炎)並びに冠不全症の、後者において外傷性頸椎症の、各傷害を蒙つた。

(二)  責任原因

1 被告中村養鶏園(以下単に被告会社という。)は加害車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、原告らの身体に加えられた一切の損害を賠償すべき責任を有する。

2 被告中村は、加害車両を運転して交差点附近を進行する際、前方注視を怠つた過失により本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条に基づき原告らに生じた一切の損害を賠償すべき責任を有する。

3 被告らは、昭和四七年一一月二九日、原告久木道夫との間に、被告らは同原告に対し、本件事故による治療費の一切を支払う旨の約束を含む示談をした。

(三)  損害

1 原告久木まつゑ分

(イ) 治療費 金三、五四一、六六七円

昭和四五年一二月二一日以降昭和四七年一二月一二日に至るまでの広瀬外科病院における入院治療費

(ロ) 入院雑費 金一六〇、五〇〇円

入院日数五三三日間につき、一日当り金三〇〇円の割合によるもの

(ハ) 附添看護費 金三六〇、〇〇〇円

附添期間三六〇日間につき、一日当り金一、〇〇〇円の割合によるもの

(ニ) 逸失利益 金六、七四七、五五七円

(1) 昭和四五年一二月六日以降昭和四八年三月六日に至るまで一ケ月金一〇〇、〇〇〇円の割合による休業損害金二、八〇〇、〇〇〇円

(2) 昭和四八年三月七日以降七年間にわたり、労働能力五六パーセント喪失したことによる逸失利益相当の損害金三、九四七、五五七円

(ホ) 慰藉料 金三、四三四、四四〇円

(1) 入院期間五三五日間について、一日当り金三、五〇〇円の割合による慰藉料金一、八七二、五〇〇円

(2) 後遺障害の残存に関する慰藉料金一、五六一、九四〇円

(ヘ) 弁護士費用 金一、二〇〇、〇〇〇円

2 原告久木道夫分

(イ) 治療費 金二、六九五、三四三円

広瀬外科病院分

(四)  損害の填補

1 原告久木まつゑ分

(イ) 自賠責保険から治療費等に関するものとして三一三、二九〇円

(ロ) 自賠責保険から後遺症に関するものとして金一、三一〇、〇〇〇円

(ハ) 被告らから金五九〇、〇〇〇円

2 原告久木道夫分

(イ) 自賠責保険から金五〇〇、〇〇〇円

(五)  よつて原告久木まつゑは被告らに対し、連帯して本件事故による損害金残金一三、二三〇、八七四円及び内金一二、〇三〇、八七四円に対する本件事故発生の翌日である昭和四五年一二月七日以降、内金一、二〇〇、〇〇〇円に対する本訴状送達の翌日以降各支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告久木道夫は被告らに対し連帯して本件事故による損害金残金二、一九五、三四三円及びこれに対する本訴状送達の翌日以降支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁並びに被告らの主張

(一)  請求原因(一)は認める。

同(二)1ないし3はいずれも認める。但し3の治療費とは本件事故と因果関係のあるものに限られる。したがつて後記のとおり治療費のうち右因果関係の認められない部分については被告らに責任はない。同(三)1ないし(ヘ)、2はいずれも不知ないはし争う。同(四)1、2はいずれも認める。

(二)  原告らに対する広瀬外科病院の治療は過剰診療、過誤診療の疑が極めて濃厚で、原告らの治療に要したとされる治療費の内の相当額は本件事故との因果関係が認められないものである。

第三証拠〔略〕

理由

(原告久木まつゑの請求について)

(一)  請求原因(一)、(二)1、2各記載の事実については当事者間に争がない。

右事実によると被告らは連帯して同原告に対し本件事故による右傷害により同原告が蒙つた損害を賠償すべき義務がある。

(二)  いずれも成立につき当事者間に争のない甲第五ないし第一一号証、第一七ないし第二一号証、第三九、第四〇号証、証人広瀬俊男の証言、原告本人久木まつゑの尋問の結果によると、同原告は昭和四五年一二月六日から同月二一日までの一六日間名古屋市の菊井外科に入院して頸部挫傷、前胸部、背部挫傷の治療を受け、右同日自己の住居に近い鯖江市の広瀬外科病院に転医したこと、転医当時の所見は、胸部打撲による心不全が強く、また頭部外傷による脳症と外傷性頸椎症のため、頭痛、眩暈等の脳症が著明で、頸椎症々状も高度であつたため、ギブスにて頸部を固定したまま絶対安静を要するものであつたこと右症状は、種々の療法を施されたものゝ、一進一退の状態で、同原告は胸部打撲による心臓圧迫、狭心様症状、呼吸困難等の心不全並びに嘔気、嘔吐、発熱、頭痛等の症状に悩まされ、昭和四五年一二月二一日以降同四六年一二月一五日までの三六〇日間付添看護の必要があり、付添看護を受けたこと同原告は右期間は主に脳症並びに心不全症に対する治療を受け、それ以後は主に外傷性頸椎症並びに心不全症に対する治療を受けたこと、そして昭和四七年六月八日頸部痛、頭痛、疲労感等はまだ残つていたが、退院し、その後同年一二月一二日まで同病院に実日数一二九日間通院して治療を受けたこと右治療にもかゝわらず、頸部前後左右屈共に高度の運動制限と、第六頸椎骨折による癒合部に変形性頸椎症を残存し、局所の筋肉は著明なる筋委縮状態が現われ、肩頸腕症候群が残存し、視力、聴力、思考力、指南力の減退低下が高度であつたことそのため同原告は医師田中猛夫から、脳波上実質的障害の所見があり、自覚的に物忘れが多く平衡機能の障害が証明出来る、そのために労働には通常差しつかえないが服する労務に相当の制限を受けるとして自賠責保険障害等級第九級一三号の後遺症ありと認定されたこと同原告の広瀬外科病院での治療費合計は金三、五四一、六七七円であり、そのうち金九一、三五〇円は被告らから、金二〇〇、〇〇〇円は自賠責保険から各支払われていることが認められる。ところで被告らは、同原告に対する広瀬外科病院の治療について、被告らの主張(二)記載の主張をする。しかし、仮に右治療が過剰診療、過誤診療であつたとしても、同原告においてこれを認識してあるいは少なくとも認識しなかつたことに過失があつて右診療を受けたというような特別な事情がない限り、右診療は、本件事故と因果関係のあるものというべきである。右特別な事情の存在を認めさせるに足る資料はない。したがつて同原告に対する広瀬外科病院の治療は本件事故と因果関係のあるものというべきである。

(三)  そうすると同原告は、本件事故による傷害の治療のため、広瀬外科病院で五三五日間入院して、実日数一二九日間通院して加療を受け、入院期間のうち三六〇日間は付添看護を要したため、右治療費合計金三、五四一、六六七円、入院雑費金一三三、七五〇円(一日当り金二五〇円の五三五日分)、付添看護費金三六〇、〇〇〇円(一日当り金一、〇〇〇円の三六〇日分)の合計金四、〇三五、四一七円の損害を蒙つたというべきである。

(四)  そしていずれも成立について当事者間に争のない甲第一二号証、乙第五号証の一、前掲甲第三九、第四〇号証、原告本人久木まつゑの尋問の結果によると同原告は本件事故前一年以上前から飲食店を営み少なくとも年間金六〇万円の収益をあげていたこと同原告は本件事故による傷害により、少なくとも昭和四五年一二月二一日から同四七年一二月一二日までの七二三日の加療期間、右営業をなすことができなかつたことが認められ、同原告は昭和二年四月八日生であること本件事故により自賠責保険等級第九級一三号の後遺障害を受けたことは前記認定のとおりである。右事実によると同原告は本件事故により二年間の休業損金一、二〇〇、〇〇〇円と労働能力喪失による損害金八四二、七〇九円(労働能力喪失率三五%、五年間分、法定利率年五分のホフマン法により中間利息控除)の合計金二、〇四二、七〇九円の損害を蒙つたというべきである。

しかし逸失利益が右認定額以上であることを認定するに足る資料はない。甲第五〇号証の一ないし一一によると前記営業の昭和四五年一月以降一一月までの売上実績は一応認められるとしても、それに要した費用額が不明であり(甲第五一号証の一ないし二二、第五二ないし第五四号証の各一ないし四、第五五号証の一ないし一四、第五六号証、第五七、第五八号証の各一、二、第五九、第六〇号証、第六一号証の一ないし一五、第六二号証の一ないし五、第六二号証の一ないし八、第六三号証によるも不明である。)ひいては収益額も不明であり、これを確定させて認定することはできない。

(五)  前記認定の本件事故の態様、同原告の受傷の程度等諸事情を合せ考えると本件事故の同原告に対する慰藉料は金二、五〇〇、〇〇〇円が相当であると認める。

そうすると同原告の本件事故による損害額は前記(三)ないし(五)記載のものの合計金八、五七八、一二六円であることは計算上明らかである。

(六)  請求原因(五)記載の事実は同原告において自認するところである。右損害の填補額合計金二、二一三、二九〇円は、同原告の本件事故による損害額を算出するにあたつて、(五)記載の損害額から差し引かれるべきものである。そしてその差引残額が金六、三六四、八三六円となることは計算上明らかである。

(七)  本件認容額その他本件に現われた一切の事情を考慮すると本件弁護士費用として金四五〇、〇〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに賠償させるのを相当と認める。

(八)  したがつて被告らは、同原告に対し、連帯して(六)記載の金六、三六四、八三六円と(七)記載の金四五〇、〇〇〇円との合計金六、八一四、八三六円及び内金六、三六四、八三六円に対する本件事故の発生日の翌日である昭和四五年一二月七日以降、内金四五〇、〇〇〇円に対する昭和四八年四月一日(本訴状送達の翌日――本件記録上明らかである。)以降各支払済に至るまで年五分の割合による法定遅延損害金を支払うべき義務がある。

(原告久木道夫の請求について)

(九) 請求原因(一)記載の事実は当事者間に争がない。

いずれも成立について当事者間に争のない甲第二ないし第四号、第四七、第四八号証、証人広瀬俊男の証言、原告本人久木道夫の尋問の結果によると同原告は本件事故による傷害の治療のため、広瀬外科病院に、昭和四五年一二月九日通院し、翌一〇日以降同四六年六月一〇日まで入院して加療を受け、同日退院して通院するようにしたが、かんばしくなく、同年七月一日以降同月一四日まで入院し、同日再度退院して身体をならそうとしたが、やはり体調がおもわしくなく同月二二日以降同四七年四月二七日まで入院して加療を受けたこと、右治療費合計は金二、六九五、三四三円であることが認められる。そして仮に右治療が過剰診療、過誤診療であつたとしても、同原告においてこれを認識していたということはもとより認識しなかつたことに過失があるということの認められない本件においては、右治療は本件事故と因果関係あるものというべきである。

被告らが昭和四七年一一月二九日同原告との間に、被告らは同原告に対し、本件事故による治療費の一切を支払う旨の約束を含む示談をしたこと右治療費のうち金五〇〇、〇〇〇円は自賠責保険から填補されていることは当事者間に争がない。

そうすると被告らは同原告に対して連帯して金二、一九五、三四三円(前記二、六九五、三四三円から右金五〇〇、〇〇〇円を控除したもの)及びこれに対する昭和四八年四月一日(本訴状送達の翌日――本件記録上明らかである。)以降支払済に至るまで年五分の割合による法定遅延損害金を支払うべき義務がある。

(十) 以上の次第であるから、原告久木まつゑの請求は、そのうち(八)に認定の限度においては理由があるから、その範囲でこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、原告久木道夫の請求は全部理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条二項但書を、仮執行の宣言については同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 水谷厚生)

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